税と売却とヒミズと元トモ
市民税を払う。
2017年の収入で決まった税金を、転職1年目に払うのは少しキツい。支払いは四期に分かれていて、今回がようやく最後だった。
少しでも足しにしようと思ったわけでもないのだが、ゲームソフトやCD、本を古本屋に売ってきた。紙の本が大した値段にならないのはわかっていたが、ゲームソフトが千円以上の値段で売れるとは思わなかった。中古で買って、買ったときとさほど変わらぬ値段で売れたソフトもあったんだけど、いいのかな。
やっぱり引っ越しはするものだ。
引っ越しのようなビッグイベントがない限り、「せいやっ」とモノを処分することはない。去年の3月に引っ越したとき、けっこうモノを処分した。
まあ「ビッグイベント」というよりも「処分しないとメッチャ大変かつ金もかかるぞ、という大義名分」が、捨てられない性分の自分が多くのモノを処分できた正確な理由だ。
それを期に、自分の中で「モノを処分する」ということへのハードルが下がっている。引っ越しのオマケみたいなもので一時的なものだと思う。間もなく引っ越してから1年が経とうとしているので、今回が最後っ屁だろう。
昨夜風呂から上がって布団に入ると、ふと
「売るか」
と思いついた。思いついたが最後、売るモノの選定が完了せねば寝かせてもらえない。
まずはゲームソフトだ。最近、時間はあるくせにゲームをしていない。
「タンスの肥やしだぞ」
という声が聴こえる。タンスではなく、テレビ台の収納からPS4とDSのソフトを取り出す。ドラクエ ビルダーズはもう2も出てるし、ドラクエ4・5・6も十分プレイした…売ろう。
「もうちょい部屋を身軽にすべきだ」
という指示を受け、本棚へ向かう。
マンガは巻数が多くなるとかさばるので電子書籍で読むことも増えた。これを期に、少し売ってしまおう。
『ヒミズ』を手に取った。
躊躇する。
「じゃあ最後にもう一度読もう」
と納得させる。
時計は1時を回っていた。やめておくべきだった。
1巻のはじめこそ笑いながら読んでいたが、読み終えて、ドンヨリ。なんかお腹のあたりが調子悪くなってる。2時過ぎてるぞ。こんな時間に何してんだオレ。
でも、物語後半の住田くんは、まさにこんな感じのテンションだったのではないか。まわりの人間は寝静まる中、ポツンと一人だけ起きている。テンションが一時的に深夜スペシャルエディションになっており、価値判断が先鋭化する。
「普通」の人間なら、多少テンションがスペシャルになったとしても、眠ることでリセットされ、翌朝には通常盤のテンションで、昨夜の自分の極端さに呆れつつ、笑いながら、そのときの思考をゴミ箱にポイできる。
でも住田くんは眠れなくなってしまった。
リセットされないまま深夜スペシャルエディションがループする。ヤクザのアンちゃんに、はっきりと「お前は病気だ」とも言われる。
同級生の茶沢さんたちのお陰で、ようやく眠りにつけそうに見えただけに、最後の住田くんの決断はツラかった。ズシン。
『ヒミズ』を買ったときのことを思い出す。先に映画版『ヒミズ』を観たのだった。
まだ学生のときだ。友達のMくんに誘われて目黒シネマに観に行った。そのあとにバイトか何かの予定が入っていて、ラストだけ観ずに席を立ったのだが、どうしても気になって、その後、再び目黒シネマを訪れた。
園子温監督の作品を観たのも、主演の染谷くんや二階堂ふみを認識したのも初めてだったし、名画座デビューでもあった。
Mくんとは映画や本の話をたくさんした。
今はTBSラジオリスナーと言えなくはないくらい、そこそこ広めにTBSラジオを聴いている自分だが、当時は町山さんが出てる番組しか聴いていなかった。そんな自分にMくんは、宇多丸さんの批評を参考文献として教えてくれて、それがきっかけでタマフルを聴くようになり、それがジェーン・スーさんの相談は踊るや、チキさんのセッションにつながっていった。
そんなMくんとはすっかり疎遠になってしまい……てコレ、タマフル&アトロクの「元トモ(疎遠になってしまった友達)特集」のテンプレじゃないか。
いや、でも冗談じゃなく、ある時期を境にMくんとは疎遠になってしまった。酒を飲みながら、好きな本や映画やラジオについてあーだこーだ語り、こんな作品も、こんな本も、と互いに紹介し合える関係が一時的にだが成立していた。まあ、ちょっと本気でアトロクにメール送ろうかな、とも思ったくらいの元トモエピソードではある。
「元トモといえば、そういや『ヒメアノ~ル』も『ヒミズ』と同じ作者だったっけ…」
などと連想して(こちらは映画版しか観ていない)、余計にドンヨリした。
と、深夜スペシャルエディションで回想しながら、売る本とCDの選定を完了し、ようやく眠りにつけた。
ちゃんと眠れてよかった。