新年に観た新作映画のおさらいと『レ・ミゼラブル』の失敗

2013年に入ってから今日までに観た新作映画は7本。

 『ホビット 思いがけない冒険』@ユナイテッドシネマとしまえん
 『レ・ミゼラブル』@新宿バルト9
 『LOOPER/ルーパー』@新宿バルト9
 『砂漠でサーモン・フィッシング』@新宿ピカデリー
 『テッド』@TOHOシネマズ渋谷
 『フラッシュバック・メモリーズ3D』@新宿バルト9
 『ライフ・オブ・パイ』@ユナイテッドシネマとしまえん

ホビット』、『ライフ・オブ・パイ』はIMAX3D、『フラッシュバック・メモリーズ』は通常の3D、それ以外は2Dで鑑賞。忘れないうちに感想を書いておく。

【以下、『タイトル』― 映画の要約あらすじ】


ホビット 思いがけない冒険』 ― 小人とじいさんとヒゲのおっさんたちの冒険物語


昨年夏の『アベンジャーズ』以来、IMAXで観るときにお世話になっているユナイテッドシネマとしまえんにて。デートでも家族サービスでもないのに豊島園駅で電車を降り、一人で劇場へと歩く。平日の夜で助かった。休日のお昼とかじゃなくて良かった。

「大丈夫だよ、豊島園そんなに流行ってないから」

夜遅くの回だったこともあってか広い劇場内に客は数人。

ホビット』を観る前に『ロード・オブ・ザ・リング』3部作を急いで観てから劇場へ。『ホビット』の冒頭でフロドが登場。なんだか懐かしくなってジンとした。(ロード・オブ・ザ・リング観てから数時間しか経ってなかったけど。そしてその後、イライジャ・ウッドとは『シン・シティ』で再会。そっちの方がいいよ)

おもしろかった。ビルボの人がハマリ役でわかりやすく笑える。序盤、冒険の仲間たちがビルボの家に集まって宴会始めるところなんかコント。展開は古典的だけれど、まぁもともとそういうものだし、それがいいんですよね。ムサい男たちに泣けます。

そして映像の鮮明さ。HFR(ハイ・フレーム・レイト)とかいう単位時間当たりのコマ数がいつもより多い撮影技術を使ったものらしい。それにIMAXのどでかいスクリーンと3Dが相まってグングン引き込まれる。洞窟内の追いかけっこには酔いそうなほど視覚を揺さぶられたし、石の巨人の壮大さには圧倒された。そして、あの朝焼けのシーン。ビルボたちを乗せたコンドルが目の前で飛んでいるように見えて、スクリーンの中に一瞬本当に入り込んだかのように感じた。それだけでなんだか泣けた。(意味なく映像のすごさのみで涙を流すことをプロメテウス現象と呼ぶ)

とか言いながら中盤で少し意識を失ってしまった。いや、劇場へ向かう電車の中からすでに強い眠気に襲われていたし、スクリーンに入る直前に松屋でネギたま牛めしを食べたからなんだ、決してつまらなかったわけじゃない。(でもやっぱり中盤ダレたかも)

十分楽しんだ。映像も物語も両方しっかりとしていてプロメテウスとは比べ物にならない。続編が楽しみ。

あ、忘れてたけどゴクリも相変わらず良かった。ちょっと笑っちゃうくらい。




レ・ミゼラブル』 ― 受難・苦難・そんなんばっか

これは困った。観ている間、ずっと困っていた。劇場を出てからも困っていた。

「楽しめない……」

もともとあまり観る気はなかった。劇場で予告編を見る限り「ないかな……」というのが率直な感想だった。お涙頂戴モノ感がビンビンに出ているし、しかもミュージカルだし、なによりアン・ハサウェイが痛々しい。キャットウーマンが何やってんだ!あのプリケツはどこへ行った!?プリケツ・プリクエル!
…失敬。
 
唯一、大好きなサシャ・バロン・コーエンが出ている。それだけが劇場で観るわずかなモチベーションだった。「彼が出てるなら……でも、チョイ役みたいだし」

けれど、新年に入ってから周りの数人が(すみません、盛りました、2人です)好意的(1人は賞賛)な感想を述べていた。SB・コーエンもいい働きをしているらしい。それが後押しとなって劇場へ足を運んだ。

けれど、全然入り込めなかった。サシャ・バロン・コーエンだけは笑わせてくれた。SB・コーエンが経営している宿屋の紹介シーンはミュージカルとしても楽しめたけど、それくらい。この失敗については後でもう少し考える。




LOOPER/ルーパー』 ― 30年後の自分が何の罪もない子供を殺そうとしているのですが止めた方がいいでしょうか?

最高だった。

ラストシーンに重なるホワイトフェード。その静寂の中、幕を引くエンドロール。暗闇をバックに流れる曲が二時間の記憶を廻らせ、涙がこぼれる。最後のエンドクレジット、スクリーンの中心に大きく『LOOPER』という文字が打ち出された瞬間、「完璧だ」と感じた。


 


この時点で2013年ベストの映画。エンドロールで泣いたのは初めて。もう一度、劇場で観たい。

やはり、というべきか、この映画については色々と設定上の指摘があるし、「言われてみれば〜」なことも出てくる。けれど、今と地続きの未来観もリアルに感じたし、劇場で一本の映画として観たときには、欠けていたようなピースがはまったような読後感ならぬ観後感があった。

「お前さん、映画観るときに細かいところみないで、ずいぶんざっくりみてんのな」

その通りとしか言いようがないし、あんまり深い洞察もできないのですませんと謝ることしかできない。「楽しんだんだからいいじゃんかよ!」と言い切ることもできない。

「でも、まぁいいか。好きだし、もっかい観にいこ」

子役の男の子がナイス演技してました。




砂漠でサーモン・フィッシング』 ― 砂漠でサーモン・フィッシング

僕は好きです。上の大作と比べるのはかわいそうだけどやっぱり少し軽いかな。でも好きです。

これも劇場で予告編を観たときは「なんだかなぁ」と感じたけど、「ユアン・マクレガーが出てるし…」(『人生はビギナーズ』で好印象を抱いている)と観に行ったら正解でした。あの景色を劇場の大きなスクリーンで観れてよかった。

人生はビギナーズ』より深くはないけど、小さなユーモアが散りばめられている柔らかい雰囲気は好きです。アルフレッドのコミュ力の欠如っぷりも微笑ましいです。イエメンのあの人も信神深く落ち着いたインテリっぽさがなんとも言い難いオーラを放っており誠に男性的な魅力に溢れておりました。あの女の人はどっかで観たことあるなと思っていたけど『LOOPER』のサラの人(エミリー・ブラント)だったとは気づきませんでした、すみません。

劇場は女性客が多かった。若い女子が「ってか、結果、誰も得してないじゃん?」とか口にしていましたが、「お前に何がわかるんだ」と説教かましたった、という絵コンテを頭の中で描きながらエスカレータを下っていると、別の若い女子が「あの主人公のおっさんがさぁ…」とかほざいていて、「おっさんって……ユアン・マクレガーだぞ!おっさんじゃないだろお兄さんだろ謝れ今すぐ謝れおれに謝れこんちき」と憤慨する心を撫で付ける術は二十数年生きていれば身につけている。

僕は好きです。




『テッド』 ― 星に願いを。ビールとハッパとデリヘルが大好物の熊おじさんと良い人だけど大人になれない人間おじさんの友情と恋を巡る素敵なR指定の物語

最初から最後まで爆笑。最高の2時間。『LOOPER』を抜いて2013年暫定ベストに踊り出る。

観る直前にかつやでカツ丼食べたけど(これが「かつや」デビュー)今回は寝なかったぞ!寝る暇なんてなかった。笑いっぱなし。いちいち可笑しい。

マーク・ウォールバーグミラ・クニスの出会いのシーンでの"Stayin' Alive"パロディダンスも良かった。モーテルでの大乱闘のシーンも良かった。あちこち良かった。

宇宙人ポール』とテーマもテイストも似てるけど、爆笑度は『テッド』の方が高いかもしれない。(でも物語としてはポールの方が好きかも)

上映後は字幕監修の町山さんと映画秘宝の人のトークショー。話は主に町山さんが直した字幕について。アメリカでは常識だけど日本の人が知らない概念や商品名などをそのまま訳してしまうと伝わらないので、どう日本語に置き換えるか、という苦労。それと激しすぎる差別ネタをどうマイルドにするか。町山さん、カップルや女性客もいたのに躊躇なくいつもの感じで話すもんだから面白かったけどたぶん引いてる客もいただろうな。

それよりもなによりも日本で『テッド』が売れて売れて劇場がいっぱいになってるなんて信じられない。男同士の友情を描くブロマンスは女性客が入らないからってなかなか日本公開にならないし、『テッド』も去年の段階では「日本公開あるかなぁ……ノラ・ジョーンズが出てるからもしかしたら」なんて言ってたのに。かわいいクマさんにつられて入るカップルとか女性客がいるのかな。あんなのカップルで観たら気まずいんじゃないのか?でもこれを機にブロマンスがもっと劇場公開されるようになるとうれしい。

なんにしても監督&テッドの声のセス・マクファーレンさんには注目ですね。

楽しいコメディを観ると「おいらもこんなコメディ作ってみたいな」と思う。




『フラッシュバック・メモリーズ3D』 ― 事故に遭って記憶がなくなった。長い時間、覚えていられなくなった。

すごかった。3Dだったのだが、新宿バルト9の中でも小さめのスクリーンでの上映だった。けれどそんなことを感じさせないくらい引き込まれた。

現在のGOMMAさんたちの演奏をバックに事故前と事故後の写真とビデオ、日記の言葉がどんどん流れていく。

3Dの効果とカメラアングルのせいか、目の前にステージがあってそこで演奏しているのを聴いているような感覚。まさにライブ。重厚な音と「フラッシュバック」する画と言葉に浸ってるうちに終わってしまった。あっという間だった。

事故後のGOMMAさんのライブの様子。GOMMAさんの前に置かれた譜面台には「現在、静岡でライブ中」と書かれた紙が貼ってある。ステージに立って演奏してる間も記憶が持たないのか。自分の娘に渡すクリスマスプレゼントのセッティング。あの子は喜んでくれるだろうか。日記には「神様、この記憶だけは消さないでください」

「感動した」というとどうしようもなくチープだが、感動した。「心を打たれた」と書くと嘘くさいが、心を打たれた。

劇場で観てよかった。




ライフ・オブ・パイ』 ― 漂流したのはいいんだけどこの大きな猫と一緒ってのはちょっと困るんです

そして昨日、ユナイテッドシネマとしまえんに行って観てきた。公開初日の朝一、午前9時の回。デートでも家族サービスでもないのに豊島園駅で電車を降り、一人で劇場へと歩く。休日だったけど朝早くで助かった。お昼とかじゃなくて良かった。

「大丈夫だよ、豊島園そんなに流行ってないから」

……。

席は半分くらい埋まってただろうか。左右の席が空いていてゆったりできたのがよかった。

冒頭から気持ちの良い3D。パイの由来となったというママジが訪れたフランスのプールのシーンは美しかった。ママジは可笑しかったけど。この時点で「あ、いい映画だ」とピンときた。

大きな猫のリチャード・パーカーと少年パイの交流、成長してからのパイとリチャード・パーカーの関係は手塚治虫先生の『ブッダ』に出てくるタッタを思い出させた。

海を泳ぐリチャード・パーカーの耳が下がっててかわいかった。やっぱり猫。

それにしてもボロ泣き。パイが初めて生き物を殺すとき。パイの中に生まれるリチャード・パーカーへの友情と愛情。ボロ泣き。後半はもう辛かったし悲しかった。涙ぬぐうのに3Dメガネが邪魔だった。

IMAX3Dだからというだけではなくてストーリーと画の見せ方も大きいんだろうけどスクリーンへの没入感と臨場感はすごかった。あの朝焼け(夕焼けだったか?)もクジラのシーンも浮島もすごかった。3D体験と物語の両方合わせて最高だった。

エンドロールも良かったなぁ。やっぱり3Dは「飛び出し」よりも「引き」が効くよなぁ。

設定だけならただの漂流モノになりそうなところで、パイの信仰とリチャード・パーカーとの関係に焦点を当てたおかげか感動的な出来栄えになってた。助かったけど、最後は本当に寂しいというか悲しいというか……もう涙あふれたとしかいいようが……

オールドパイを演じたスラムドックミリオネアの人が良い味出してました。出ている時間は青年パイに比べたら少ないけど、彼がいなかったらこの映画にここまで泣かされなかったと思う。

そして日本語もいっぱい出てきます。どうせならあそこはちゃんと日本人使えばよかったのに。

というわけで2013年ベスト更新。帰りは人目を避けるようにして劇場から駅へ急いだ。





で、『レ・ミゼラブル』だ。

駄目だった。本当に困った。スクリーンに入りきれずに物語にも乗り切れずになんとか追いつこうと誰かに感情移入しようと劇場の座席で苦しんでいる自分を空中から見ているような感覚さえあった。

「なんで入り込めないんだ?余計なこと考えずに集中しろ」

考えれば考えるほど入り込めない。当たり前だ。考えないことを考えるなんて悪循環しか生まない。

気づかないうちにホームから落ちていたのだ。入り口を間違えたのかもしれない。他の人間たちを乗せた列車はもうとっくに見えないところまで進んでいるのに、乗れなかった列車の扉を探してずっと地面を掘っていた。

「なにも出てきやしないのに。それと、次の列車が来るのは2時間後だよ」

読んでいるのが小説なら一度、本を閉じて再出発もできる。でも映画は止められない。

「いや、映画だって再出発できるぞ。劇場を出ればいいんだ」

そうするべきだったのだろうか。


この苦しみは以前にも一度味わっている。『キック・アス』を観たときだ。

町山さんも映画秘宝もみんなみんな大絶賛のあの映画を観てる間、ずっとある疑問が頭を占めていた。

「いつ来るんだ?」

ついにビッグウェーブは来なかった。いや、大きめの波は来た。最後に来たその波には流されただけで乗りきれはしなかった。

「こんなはずじゃなかったのに」

キック・アス』のときも『レ・ミゼラブル』のときも、観ている間は焦りを感じた。観終った後は寂しさを感じた。

「みんなは楽しそうにしてるのに、どうして僕だけ置いてけぼりなんだ?」

レ・ミゼラブル』の欠点を挙げることもできるが、それよりも映画の見方がわかっていなかったんだと思う。当たり前だけれど、誰にでも合う映画などないし、そのときの状態でその作品を楽しめるかどうかも変わる。

評判の良さに身構えていた。もっとフラットな状態で観るべきだったし、もしそうできたとしても楽しめる保証などもとからない。

作品の良さは「作り手の腕」だけじゃなくて「観客の状態」との兼ね合いで決まる。


……まぁ、そうなんだろうけど、楽しみたかったんだよな、やっぱり。


置いてけぼりになって1人で泣いているところをサシャ・バロン・コーエンに拾われて宿屋でこき使われて育ったような感じ。でも手を差し伸べてくれたのは彼しかいなかったんだ。SB・コーエン、嫌な奴だけど大好きだ。ありがとう。


そんなことを書いたらムラヤマ接骨院の院長から言われた。

「SBコーエンが出てる時点で、そういう差別を受ける準備ができてた変態だ。それが、本望だったんだよ。気付きを得たから、成功だよ」

そうだな。そう思うことにしよう。