「127時間」― "Don't lose it"


岩の壁と壁の細い隙間のなかで、落ちてきた岩に右腕を挟まれた。

岩は重く、動かすことができない。

水は残り少なく、食料もほとんどない。

人は通らない。上空を飛ぶ鳥と地面を這う蟻だけ。

時間が経ち体内の水分が失われ幻覚が始まる。

自分に言う。 "Don't lose it"

「しっかりしろ。正気を失うな」

ここから逃れる方法は一つ。

腕を切断するしかない。



2010年11月19日のキラ☆キラで町山さんが紹介していた映画「127時間」を観ました。

2003年に実際に起きた事故をもとにして作られたものです。
ユタ州のブルージョンを一人でハイキングしていた Aron Ralston が岩に腕を挟まれてから助かるまでを描いた『奇跡の六日間』(文庫化の際『127時間』に改題)がこの映画の原作です。

127時間 (小学館文庫)

127時間 (小学館文庫)


行き先を誰にも告げず、満足な水も食料も持たず、人里離れた峡谷で一人身動きが取れなくなった絶望的状況で、少しずつ精神が蝕まれていく様子がリアルに描かれています。

生きて帰ってこれたから本になっているわけで「なんだかんだで助かる」という結末はわかっているのですが、ラストがわかっていてもこの映画の面白さは変わりません。というのも、この映画の良さは「生きて帰るために行動を起こすまでの過程」にあるからです。

初めは、岩を持ち上げようとしたり、ナイフで岩を削ったりしますが岩は外れるどころか逆に腕に食い込んできます。右腕を切ろうとしてナイフを刺すも、小さくてしかも岩を削って刃が丸くなったナイフでは骨までは切断できず、断念します。

打開策が見つからないまま時間は過ぎます。
夜は気温も下がります。水分を失ったために幻覚も始まります。
苦しむよりも気を失って死んでしまう方が楽です。

しかし、あるものが彼を現実に繋ぎ止めます。

その奇跡によって生きて帰ることを選び、最後の決断に至りました。

そこからはとにかく痛かったです。直視できなかった。
彼も何度も正気を失いそうになりますが、奇跡を思い出して持ちこたえます。



人間は一人では生きていけない。
人間を現実に繋ぎ止めるものは何なのか。

ダニー・ボイル監督はインタビューでこう語っています。

彼はあのとき一人ではなかった、それが重要なことなんだ。肉体的な意味では一人だが心が孤独になることはなかった。

生き残ることができたのは彼の命がけの決断ではなく、その勇気を与えてくれた大切な人たちの存在だ。

そしてアーロン本人もインタビューで言っていました。

この映画で語られているのは絶望的な状況の中でも力を与えてくれる人とのつながりの大切さだ。


この映画のテーマは最近見た "Souce Code", "Groundhog Day" と通じるものがありました。
実際、映画のポスターにもこう書いてあります。

"EVERY SECOND COUNTS"

考えさせられる映画でした。とても良かったです。
六日間いたその場所を去るときにアーロンが呟いた一言が印象的でした。


監督インタビュー↓


本人インタビュー↓