キャプテン・ロジャースへと続く道

2013年のベストを10を決めなければ、と思い悩んでいるうちに2014年ももう3分の1が過ぎようとしている。

結局、去年劇場で観た映画は90本ほど。ベスト10を決めろなんてなんて無茶だ(誰もそんなこと頼んではいないのだが)。
あれはよかったこれはよかったあれもこれもと思い出すたびに順位が入れ替わる。

けれどベスト1は決まっている。これについては迷う必要がなかった。

もちろん『アイアンマン3』だ。

アイアンマンへの思いは過去に既に書いている。

 これからの「アイアンマン」の話をしよう 〔前編〕
 これからの「アイアンマン」の話をしよう 〔後編〕

けれどアイアンマンについてはいくら語っても語り尽くせない。
(そして実際に次に書くと言ってまだ書いていないことがある。アイアンマンスーツのこと。メタルヒーローシリーズとの関係についてだ)


しかし、ここでいう「語り尽くせない」というのは「語りたいことが山ほどあるために時間がいくらあっても語り終えることができない」ということではない。

「いくら語ってもまだ十分語り切っていないような気がする」「これだけの言葉では己のアイアンマン愛を表現しきれていないような気がする」という不足感、いうなれば「残アイアンマン感」のことである。


この残アイアンマン感は「好き」ということの本質に関わっているような気がしている。

『クラウドアトラス』について語った時にこう書いた。

チェックリストを埋めていって一定の条件を満たしたら「好き」になるわけじゃない。「ここがこうだから好きなんだろうか」好きになった後で好きになったそれを眺めて推測することはできる。そうやって自分の深いところに潜っていく作業は面白いし興味深いけれど、必ずしも明確な「好きな理由」が見つかるわけじゃない。というかそんなこと可能なんだろうか。

内田樹先生の言葉を借りた後でこうも書いた。

自分がなぜそれを好きなのかをうまく明文化できないのに、どうして他人にそのチェックリストを押し付けることができるのだろうか。

好きかどうかはオレが決める。どうやって決めるのかはわからん。だから正確には自分が決めているわけですらないのかもしれない。でも、少なくともそれを決めるのはお前じゃねえよ。


「好きになった」ということはわかる。僕はアイアンマンが大好きだ。その事実ははっきりと認識している。
『アイアンマン3』を劇場で観ていたときもアイアンマンスーツを身にまとったトニーの登場で涙が出るほど喜んだ。比喩ではない。本当に涙が出た。

けれど、ではなぜアイアンマンが好きなのかと問われると言葉に詰まってしまう。

好きな理由を挙げられないことで「好き」が揺らいでしまう。
なんだか自信がなくなってしまう。

「本当に好きなのかな」


だからここであえて言い切ってしまおう。

好きであることの理由をスラスラと語ることのできてしまうものなど、本当は大して好きではない。
本当に好きであるものほどうまく理由を言い表すことができない。

のではないかと最近考えている。

「なんでそんな好きなの?」という素朴な質問にうまく答えられないからこじつけた、といえばそうなのだけれど。


深く心に突き刺さる物語というのは個人の根幹に突き刺さっているのだ。
だからこそ強く人を惹きつける物語というのは非常に個人的な物語なのだろうと思う。
普遍的で一般的であるほど多くの人間に伝わるかもしれないが深くは刺さらない。
(だから物語の生産は尽きない)

そう。
その何かが個人の奥底へと達するに十分な鋭さと強度、そして個人の根幹にフィットする形状を兼ね備えているときに突き刺さるのだ。

「好きになる」というのはそういうことなのではないか。

だから好きなものを語るときには、その対象を語ると同時に自分を語ることになる。

そんなものがすっきりと語ることができてしまうほど単純であるはずがない。

ゴチャゴチャしていてドロドロしていて入り組んだ複雑な視界の悪い道なき道を歩くような、そんな感じのはずだ。


だから書く。

書くことで自分を掘り下げる。

思考とは書くことと見つけたり

と言ったのは僕だけれど、書くことが思考の最も原初的な方法であるというのは小田嶋さんに教わったことだ。


『アイアンマン3』に話を戻すと、今回、トニーの重要な助っ人が、そして今作のテーマであるのが「工作少年」であるというのはなんだか予言したような形になってしまったが、本当に胸がジーンとした。


なぜ『アイアンマン3』について書いていたのかというと、こないだ観た『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』について語りたくて、その枕のつもりでアイアンマンの話を持ち出したのだった。
「アイアンマンといえばアベンジャーズといえばキャプテン・アメリカ」みたいな軽薄な書き出しをしようとしていたのだった。

2回観た。

1回目のあの幸せな観後感が心も体も痺れさせてしまったからだ。

キャップ……。

アベンジャーズでもそうだったが、アイアンマンも好きなのだけれど、キャプテンがいいんだ!本当に!
1作目の『キャプテン・アメリカ/ファーストアベンジャー』で既にスティーブのあのキャラにベタ惚れだった。

と、いうところまでアイアンマンの勢いで書いて、続きはまた日を改めようと思う。